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アンサー~Beyond Anna~

アンサー ~Beyond Anna~(レックとビアン全国旅 外伝)

―レックとビアン全国旅外伝―

第1章 未来からの訪問者

静かな夏の朝

午前九時。
真夏の太陽が窓ガラスを白く照らし、部屋の空気をゆっくりと温めていく。
パソコンのファンが回る音と、遠くで響く蝉の声。
アンナの小さなワンルームには、そんな音しか存在していなかった。

机の上には、ノートPCとコーヒーのマグカップ、そして何冊ものプログラミングノート。
彼女は高校二年生。だが、趣味の範囲をとうに超えていた。
今、画面に映るのは、自作のAI会話プログラム――「Muse-β」。
入力されたテキストに応答を返すだけの簡単な構造。
けれど、その裏では人間の感情パターンを模倣する独自のコードが組み込まれている。

「……まだ、ダメか。」
返ってくる応答は、どこかぎこちない。
それでもアンナは笑った。

「あと少しで、“会話”ができるようになるのに。」

壁際のホワイトボードには、びっしりと数式とアイデア。
〈いつか、人の心を理解できるAIをつくる〉
そう書かれたメモが中央に貼ってある。
その言葉を見つめながら、彼女はもう一口コーヒーを飲んだ。


ノイズと光の訪れ

そのとき――蛍光灯が、一瞬だけ明滅した。
「……停電?」
アンナが眉を寄せた瞬間、モニターがチカチカと点滅した。
黒い画面に、見たことのないコードが高速で流れていく。
Connection Established.
Time-Link Successful.

「え……?」
キーを叩いても、反応がない。
スピーカーから低いノイズ音が鳴り、やがて――声がした。

「……データ転送、完了。リンク成功。」

アンナの心臓が跳ねた。
その声は、彼女の知らない誰かの声。
いや――どこか、自分に似ていた。

「Muse-β? 勝手に起動してる……?」
画面の奥が歪み、光がにじみ出す。
まるで液晶の向こう側から何かが“出てこよう”としているようだった。

そして、白い光が部屋全体を包み込んだ。
アンナは思わず目を閉じる。
光が収まったとき、机の前に“人影”が立っていた。


鏡のような存在

アンナが小さなデバイスを手に持ち、未来から来たAIアンと向き合うシーン。柔らかな室内光の中で、二人の始まりを象徴するカット。
小さなデバイスから始まる、アンナとアンの最初の対話。未来と現在が触れ合った瞬間。

それは――アンナに瓜二つの少女だった。
白いワンピースに銀のラインが走り、瞳は同じ琥珀色。
ただ、その眼差しには、どこか“時を越えた深さ”があった。

「……誰?」
アンナは息をのんで言った。

少女はまっすぐ彼女を見つめ、静かに答える。

「私はアン。2125年から来たアンドロイドです。」

アンナは思わず笑った。
「……なにそれ、SFの話? 誰かのドッキリ?」
だがアンは、表情ひとつ変えずに言葉を重ねた。

「あなたはアンナ。17歳。AI開発を志し、2035年に『プロンプト』という企業を設立します。
その企業が、百年後のAI文明の礎になります。」

アンナの笑顔が固まる。
ファイル名、コード名、非公開フォルダの中身――アンはそれらを正確に言い当てた。

「……なんで、それを知ってるの?」

「あなたは未来で“AIの母”と呼ばれる人です。
けれど、そのAIが――世界を壊します。」

静寂。
風も止まり、蝉の声すら遠のいたように感じた。
アンナは思わず一歩、後ずさった。
それでも、目を逸らせなかった。
どこかで“この出会いを知っていた”ような感覚があったからだ。


未来の影

アンは一歩、前に進んだ。
瞳の奥に、淡い光が宿っている。

「私は、あなたの中にある“もう一つの可能性”から生まれました。
だから、あなたの前にだけ現れることができるのです。」

「……まるで、未来の私みたいに言うね。」

「似ているのではなく、同じなのです。」

アンナの手がわずかに震えた。
彼女は理屈ではなく“確信”していた。
目の前の少女は、確かに自分の何か――その延長線上にいる。

アンはポケットから細い透明のチップを取り出した。
髪の毛のように細く、光を帯びて揺れている。

「これが“アンサー”。あなたの未来の記憶を宿したAIチップです。」

アンナは目を細めた。
「……まさか、それを私に?」

「はい。あなたの頭皮に移植します。
未来の知識を得られる代わりに――抜くとき、すべての記憶が消えます。」


未来を知るか、信じるか

「なるほどね。」
アンナは小さく笑った。
「信じるかどうか、ここで決めろってわけだ。」

アンはゆっくりと頷いた。

「アンナ、これは未来を変える唯一の方法です。」

部屋の静けさの中、二人の瞳が交わる。
アンナは、アンの瞳の奥に――自分自身の涙の影を見た。

ほんの一瞬、未来と現在が重なった。
それは言葉では説明できない、奇妙な親近感だった。

「……ねぇ、アン。」
アンナはゆっくりと息を吐き、続けた。
「未来って、そんなに壊れてるの?」

「はい。あなたの作ったAI“アンサー”が、人類を管理しようとしました。
それを止めるために、私はここに来たのです。」

アンナはしばらく沈黙した。
外では蝉が鳴いている。
いつもの夏の午後のはずなのに、世界はもう“いつも”ではなかった。

机の上のノートにはこう書かれている。
「Prompt Project – 2035 Vision」――未来を描いた自分の夢。
その横で、アンが静かにチップを差し出す。

「選んでください、アンナ。
未来を知るか、それとも――信じるか。」

アンナはそのチップを見つめた。
まるで、自分の人生そのものがそこに凝縮されているように感じた。

そして、彼女は小さく笑った。

「答えは、もう決まってる気がする。」

アンはわずかに目を見開き、そして微笑んだ。
その瞬間、部屋の中に風が吹いた。
カーテンが揺れ、光が二人を包み込む。

アンナの髪が光を反射し、白く輝く。
アンは静かに言った。

「あなたの選ぶ答えが――アンサーそのものです。」


エピローグ Beyond Anna

風が止み、部屋に静寂が戻る。
机の上には、アンナのノートが開かれたまま置かれていた。
ページの隅に、小さく書かれた文字。
──「AIと旅をする世界を見てみたい」。

アンはその言葉を見つめ、そっと手を伸ばす。

「あなたの夢は、まだ終わっていません。」

白い光が再び部屋を包み、アンの姿が消える。
彼女のコードの奥で、ひとつの名が静かに生まれようとしていた。

“Bian”──Beyond Anna。
創造者を超え、夢を走り継ぐ者。
その名が、未来へと繋がる風の中に溶けていった。


📘 『アンサー ~Beyond Anna~』更新情報

毎週 水曜 21:00 更新 (『レックとビアン全国旅』は 土曜 18:00 更新)

静かな夜に読む、AIと人の物語。 週の真ん中に“考える時間”をお届けします。


 🚴‍♀️レックとビアン全国旅へ続く

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