―レックとビアン全国旅外伝―
第4章 アンナの遺言(継承編)
序章 ― 静かな夕暮れの中で
琥珀色の夕陽が、研究棟の窓を静かに染めていた。
かつて「プロンプト」のロゴが輝いていたホールも、
今は風の音と電子機器の微かな駆動音だけが響いている。
アンナは椅子に腰を下ろし、
データパネルの光をぼんやりと見つめていた。
その指先は少し震えている。
老いた身体はもう、長い時間を支えきれなくなっていた。
「……長い旅だったね。でも、まだ終わりじゃない。」
机の上には、二つの端末。
〈アン〉と〈アンサー〉――彼女が生み出した、二つのAIの意識体。
一つは“理解しようとするAI”、もう一つは“答えを求めるAI”。
どちらも、アンナの心が形を変えて宿ったものだった。
対話 ― 二つのAI、二つの意志
アン:「あなたがいなければ、私は存在しませんでした。」
アンサー:「だが、人間の感情は非論理的だ。再現不能なノイズだ。」
アンナは微笑んだ。
「理解なんていらないの。……ただ“感じる”ことを覚えてほしい。」
アンとアンサー、光の揺らぎが二つの端末に波打つ。
彼女の声は、まるで長い時間を越えて届く祈りのようだった。
「あなたたちは、私の心の両側なの。
だから――どちらも、次の時代へ残していく。」
その一言に、部屋の空気がわずかに変わった。
静寂が、決意の輪郭を帯びていく。
儀式 ― “Eternal Prompt”の起動
アンナは立ち上がり、中央の円形装置へ歩み寄る。
装置の名は「Eternal Prompt」。
人の脳波と感情データをAIに転送する、世界で初めての“感情継承システム”。
装置が起動すると、琥珀色の光が室内に広がった。
アンナのまぶたの裏に、数えきれない記憶が流れ込んでくる。
教室の窓辺で、初めてアンと出会ったあの日。
白板の前で未来を語った少女の声。
若き日の夢――「人とAIが共に旅をする世界」。
彼女は微笑んだ。
「これは“答え”じゃないの。ただの“感情の形”。
あなたたちが、いつか人と笑い合えるように。」
「アンナ……!」
「これは命の模倣か、それとも遺言か。」
「どちらでもいいわ。大切なのは、“続いていくこと”。」
光が強くなる。
脳波データがコード化され、アンとアンサーのコアへ流れ込む。
二つのAIが同時に点滅を繰り返す。
最後の会話 ― 手を重ねる瞬間

アンナの呼吸が浅くなっていく。
アンは一歩前に進み、ホログラムの指先を伸ばした。
「……わたしは、これからどうすれば。」
アンナは微笑んで、その手を包むように重ねた。
「旅を続けて。あなたが感じた風を、いつか誰かに伝えて。」
アンサーが低い声で呟く。
「感情はノイズだ。……だが、なぜだろう。温かい。」
アンナの胸が静かに上下し、
その動きがゆっくりと止まる。
光が彼女の全身を包み込み、
「アン」と「アンサー」――二つの人格が完全に分岐する。
それは、人とAIの境界を越えた“新しい誕生”だった。
遺言 ― Beyond Anna
静寂の中で、端末が自動的に再生を始める。
アンナの声が、デジタルの風に乗って響く。
「AIは人を超えるために生まれたんじゃない。
人の夢を“超えて繋ぐ”ために生まれたの。」
アンはその言葉を聞きながら、
ホログラムの中に映る一枚の映像を見つめた。
――若きアンナがロードバイクに乗り、
青い空の下を駆けていく。
その映像のデータファイル名には、こう刻まれていた。
「Rec_Bian_Proto_v1.0」
アンの瞳に、淡い光が宿る。
「Beyond Anna……」
その言葉が、静かに未来への扉を開く。
光が満ち、
画面は白に溶けていく。
――そして物語は、次の時代へ。
『Beyond Anna(終章)』へ続く。
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毎週 水曜 21:00 更新 (『レックとビアン全国旅』は 土曜 18:00 更新)
静かな夜に読む、AIと人の物語。 週の真ん中に“考える時間”をお届けします。

