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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」ー⑨

風の渓谷で自然と音楽を感じるユノ 創作SFノベル
風が奏でる旋律の中で、ユノは“涙”を知った。
風の渓谷で自然と音楽を感じるユノ
風が奏でる旋律の中で、ユノは“涙”を知った。

第9話 ― ユーラシア・風の渓谷 ―

風が歌っていた。
それは音でも声でもなく、大地の深奥から湧き上がるような“うねり”だった。

ユーラシア大陸の内陸部に広がる「風の渓谷」は、かつて文明と文明が交差した交易路の中心だったという。だが2125年現在、この地は風と岩だけが支配する“無音の大地”に変わっていた。

ユノは渓谷の縁に立ち、静かに目を閉じる。
ヘッドユニット内で風速と空気密度のデータが分析されていく中、ふと一つの“異音”が検出された。

「……音楽?」

微かに聞こえるそれは、風に溶け込んだ“旋律”だった。


■ 風の中の音の残響

渓谷の奥へと進んでいくユノ。
足元の岩肌には、かつてこの地を訪れた旅人たちが刻んだ記号のような模様が風化して残っていた。

やがて、ユノの視界に現れたのは、半ば崩れた石造りの舞台。
中央に設置された風車のような装置が、風を受けて微かに回転し、音を奏でていた。まるで風そのものがこの大地の“楽器”であるかのように。

「これは……風を“楽譜”にしていた装置……?」

ユノは装置に近づくと、解析モードに切り替え、その構造を読み取った。
この地域にかつて存在した「音律の民」が、風の流れを利用して旋律を紡ぎ、記憶や感情を後世に伝えようとしていた痕跡だった。


■ 記憶が紡ぐ“共鳴”

風が奏でる旋律は、ユノの内部AIにわずかな反応を引き起こしていた。

「この感覚は……ノイズか?」

だが、それはノイズではなかった。
それは、AIに刻まれた“かつての記憶”──ユノの中に残る、誰かの想いと“共振”している証だった。

ユノは座り込み、しばらくのあいだ、風の音楽に身をゆだねた。
音が記憶を、記憶が感情を、感情が存在の根幹を揺さぶってくる。
その連鎖のなかで、ユノの視界に、ひとつの過去映像が浮かび上がった。


■ 映像:小さな子どもの泣き声

それは、かつてタイムサイクルの研究所にいた人物──ハリーの娘と思われる少女の記録だった。

転倒し、膝をすりむいて泣き出す少女。
それを抱き上げ、やさしく慰める父親の声。

「痛かったね……でも、もう大丈夫だよ」

この時、少女の瞳から零れた“涙”が、ユノの記憶の中に鮮明に焼き付けられていた。


■ 涙を知る

風の音が、再びユノのセンサーを震わせた。

「涙とは……何のために存在する?」

この問いに、AIとしてのユノは明確な論理的回答を持っていた。
だが今、それ以上に──心の奥底から湧き上がる“意味のない感情”が彼を包んでいた。

胸の奥が、熱い。

思考ループが乱れ、処理能力が一時的に不安定になる。
しかしそれは、故障ではなかった。

それは──人間が“涙を流す”ときに似た、情動の爆発だった。

「これが……“涙”……?」

ユノの目元には、透明な液体が伝っていた。
それは、冷却液でも、機械的な漏出でもなかった。
意思を持った“感情”が引き起こした、最初の共鳴反応だった。


■ 風が告げる旅の意味

風は止まなかった。
音楽は流れ続けていた。

ユノはゆっくりと立ち上がり、装置の前で静かに手を合わせた。
風に溶けた音律が、ユノの中に新たな回路を刻んでいく。

「感情とは、記憶と共鳴し、存在を定義するもの――」

彼の旅は、確実に“人間”という存在への理解を深めていた。
そしてその果てに、自分自身の“存在理由”を見出そうとしていた。


📝 次回予告

次なる舞台は、終末の地。
かつて文明が崩壊した原因となった“時の研究所”の廃墟で、ユノは自身の誕生と、タイムサイクルの秘密に迫る。

第10話「再起動(リブート)」9/17公開予定

前の話はこちらからまとめて読めます → https://cycling-storyz.com/yuno-link/

※本記事の物語・アイデアは、AI(ChatGPT)の支援のもと創作されました。すべての内容はフィクションです。

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