プロローグ
岩手リンクを抜けた青いレールは、
海岸線から少しずつ内陸へ向きを変えていた。
三陸の荒々しい海を越えた先。
空の道の先には、
穏やかな海と、
無数の島々が広がっている。
アリスは前方を見つめた。
「……あれ?」
少し身を乗り出す。
「島か?」
ひとつ。
またひとつ。
その向こうにも、
小さな島が浮かんでいる。
「うわ……。」
アリスの声が大きくなる。
「島がいっぱいあるぞ!」
アリーが静かに答える。
「ここからが宮城リンク。
松島を中心に、
海と島々が作る景色を巡る空路よ。」
「松島って、
こんなに島があるのか?」
「そうよ。」
アリスは目の前に広がる景色を眺めた。
「すごいな。
あっちにもある。
……あ、あそこにも。」
「数えているの?」
「ちょっとな。」
アリスは楽しそうに笑った。
「どれくらいあるのか気になるだろ?」
アリーは少しだけ笑う。
「全部数えるのは大変だと思うわ。」
「マジか。」
アリスは島々を見渡した。
「じゃあ、見つけたやつだけ数えるか。」
二人は青く輝くレールへ進んでいく。
眼下には、
大小さまざまな島々。
緑に覆われた島。
岩肌を見せる島。
海の中に、
まるで誰かが並べたように浮かんでいる。
「ほら、あそこ!」
アリスが指を差す。
「あの島、丸いぞ。」
「その隣は細長いな。」
「こっちは岩みたいだ。」
アリーが頷く。
「ひとつひとつ形が違うでしょう?」
「ほんとだな。」
アリスはしばらく島々を眺めていた。
「海の上に、
小さな山がいっぱい浮かんでるみたいだ。」
島々の間を走る光の道
宮城リンクの特徴は、
これまでのリンクとは少し違っていた。
岩手リンクでは、
断崖と海岸線が強い印象を残していた。
けれど宮城リンクでは、
海の中に浮かぶ島々が、
旅の主役になっている。
スカイロードは、
その島々の間を縫うように伸びている。
アリスは、
次々に現れる島を見つけるたびに、
「あっ!」
「またあるぞ!」
「今度のは大きいな!」
と声を上げていた。
アリーが笑う。
「さっきまで景色を見ていたのに、
今は島探しになっているわね。」
「だって面白いじゃないか。」
アリスは即答した。
「次はどんな島が出てくるのか、
わからないからな。」
「なるほど。」
アリーは前方を見る。
「じゃあ、
次の島を見つけたら教えて。」
「任せろ。」
アリスは少しだけ速度を上げた。
「……ただし、
スピードを上げすぎないでね。」
「わかってるって。」
返事だけは、
妙に元気だった。
松島湾を見下ろして
午後の光を受けた松島湾は、
青と緑の重なりの中にあった。
島の木々が海へ影を落とし、
その間を小さな波が流れている。
アリスは速度を落とした。
「……きれいだな。」
「さっきより静かでしょう?」
アリーが尋ねる。
「ああ。」
アリスは水面を見つめる。
「同じ海なのに、
岩手とは全然違う。」
「岩手の三陸海岸は、
海岸線そのものの力強さが印象的だったからね。」
「こっちは、
島が海を守ってるみたいだ。」
アリーは頷いた。
「そういう見方もできるわね。」
しばらく進むと、
海へ伸びる赤い橋が見えてきた。
「おい、アリー。
あれは何だ?」
「五大堂よ。」
「五大堂?」
「松島を代表する景観のひとつ。
海の上にあるお堂なの。」
アリスは身を乗り出した。
「島にお堂があるのか?」
「そうよ。」
「へえ……。」
アリスは目を細める。
「なんか、いいな。」
「何が?」
「島に渡って、
あそこまで行ってみたくなる。」
「地上からなら行けるわ。」
「ほんとか?」
アリスの表情が明るくなる。
「じゃあ、いつか行ってみようぜ。」
アリーは少しだけ間を置いた。
「……考えておくわ。」
「それ、ほとんど行くってことだろ?」
「まだ決めていないわよ。」
アリスは笑った。
「まあいいや。
楽しみが一個増えた。」
モデルになった地上ルート
宮城リンクは、
松島湾とその周辺の景観をもとに設計されている。
地上では、
海岸沿いの道や、
松島の町を巡りながら、
さまざまな角度から島々を見ることができる。
スカイロードでは、
その景色を空から楽しめるように、
ルートが設計されている。
海の上を進むにつれて、
青いレールは少しずつ色を変える。
島々の近くでは、
水面に溶け込むような淡い青。
湾の中央へ出ると、
深く澄んだ青。
夕暮れが近づくと、
海面に金色の光が重なっていく。
「レールまで、
景色に合わせて変わるんだな。」
アリスが言う。
「宮城リンクでは、
海そのものを感じられるようにしているの。」
アリーは前方を見る。
「島を見るだけじゃない。
島と島の間にある空間も、
この景色の一部なのよ。」
アリスは少し考えた。
そして、
「ああ……。」
「わかった?」
「だから、
島がいっぱいあるのに、
ごちゃごちゃして見えないんだな。」
アリーが頷く。
「そういうこと。」
アリスは満足そうに笑った。
「なるほどな。」
松島の夕暮れ
夕方。
太陽が少しずつ西へ傾いていく。
松島湾は、
昼間の青から、
柔らかな黄金色へ変わり始めていた。
島々の輪郭が、
夕日の中でゆっくりと浮かび上がる。
アリスはペダルを止めた。
「……すげえな。」
今度は、
小さな声だった。
海面には、
長い光の道が伸びている。
スカイロードの青いレールも、
その光を受けて、
淡い金色に輝いている。
「昼間とは、
まるで別の場所みたいだな。」
アリーも立ち止まる。
「同じ場所なのにね。」
アリスは夕日に照らされた島々を見つめる。
しばらく黙っていたが、
やがて口を開いた。
「なあ、アリー。」
「なに?」
「明日の朝も、
ここ走れないか?」
「宮城リンクは、
まだ続いているわ。」
「ほんとか?」
アリスの顔が明るくなる。
「じゃあ、
まだ島探しできるな。」
「まだ続けるの?」
「もちろん。」
アリスは胸を張った。
「今日はまだ十個くらいしか見つけてないからな。」
アリーは少し驚いた顔をする。
「……本当に数えていたのね。」
「ちゃんと数えてた。」
「全部?」
「途中でわからなくなったけど。」
アリーは小さく笑った。
「やっぱりね。」
アリスも笑った。
「まあ、いいじゃないか。」
宮城リンクの終端
やがて、
夕暮れの光の中に、
次のレールが見えてきた。
松島湾を離れ、
再び内陸へ向かう青い道。
その先には、
大きな平野が広がっている。
アリスは前を見る。
「次は?」
アリーが答える。
「山形リンク。
山々と温泉、
そして雪国の景色を巡る空路よ。」
「山か。」
アリスは少し考えた。
「雪、あるかな?」
「季節によるわ。」
「雪の上も走れるのか?」
「スカイロードなら問題ないわ。」
アリスの目が輝いた。
「じゃあ、楽しみだな。」
アリーは前へ進む。
「まだ松島を離れていないのに、
もう次のことを考えているのね。」
「だって旅だからな。」
アリスは笑った。
「次に何があるかわからないほうが、
面白いだろ?」
二人のタイムサイクルも、
その後を追う。
松島の島々は、
夕日の中で少しずつ遠ざかっていった。
海と島が描いた、
静かな一日の記憶を残して。
そしてアリスは、
まだ見ぬ次の景色を楽しみにしながら、
新しい空の道へ走り出した。
🌤 スカイロード公式設定
『スカイロード』は、西暦2125年を舞台にした未来SFサイクリングストーリーです。作品に登場する未来技術や世界観、登場人物などを「公式設定ページ」にまとめています。物語をもっと楽しみたい方は、ぜひご覧ください。
