PR

タイムサイクル 第7.5話 ズレを見た日

タイムサイクル

いつものように、サンセットのガレージには穏やかな時間が流れていた。

アキは椅子に座ってジュースを飲み、ヒロは雑誌を読んでいる。

その横で、ユウはタイムサイクルを静かに点検していた。

カチ。

カチ。

工具の音だけが響く。

しばらくしてヒロが顔を上げた。

「今日は何もしないのか?」

ユウは手を止めずに答える。

「何もしないのが一番危ない」

アキとヒロは顔を見合わせた。

「それ、どういう意味?」

「時間は止まって見えるだけだ」

ユウは小さく笑った。

「少し見せてやる」


ユウはタイムサイクルの起動レバーをわずかに回した。

ほんの少し。

本当に少しだけだった。

その瞬間だった。

ガレージを風が抜ける。

だが――

ヒュゥゥ……

風が通り過ぎたあとに、音だけが遅れて聞こえた。

「え?」

ヒロが振り返る。

今度はテーブルの上のペットボトル。

水面が揺れた。

そして一瞬だけ。

水が上へ戻るように逆流した。

アキが目を丸くする。

「今の見た!?」

さらに。

床に映るアキの影が。

本人よりほんの少し遅れて動いた。

まるで別人のように。

アキは思わず後ろへ飛び退く。

「うわっ!」

ユウは落ち着いたままだった。

「今の、時間ズレてない?」

アキが聞く。

ユウはうなずく。

「ズレてる」

「いつもな」

ヒロの背中に冷たいものが走った。


そのときだった。

壁際の古い看板が一瞬だけ揺らいだ。

サンセットと書かれていた文字が。

見たこともない古い字体に変わる。

だが次の瞬間には元へ戻った。

誰も気づかない。

まるで別の時代が、そこに重なったように。

ほんの一瞬だけ。

過去か未来かも分からない景色が、現代のガレージに混じっていた。


しかし。

そんな異変など気にも留めず。

アキの目だけが輝いていた。

「なるほど!」

「つまりもっと回したらもっと面白いってことね!」

「やめろ」

ユウが即答した。

しかし遅かった。

アキはタイムサイクルへ飛び乗る。

「じゃあ全力でいく!」

「アキ!」

ヒロが叫ぶ。

タイヤが回る。

瞬間。

世界が歪んだ。


ガレージの景色が二重になる。

壁が揺れる。

天井が揺れる。

そして。

サンセットそのものが別の姿へ変わった。

未来。

白く輝く設備。

浮遊するモニター。

見たことのない機械。

次の瞬間。

過去。

木造の壁。

油ランプ。

土の床。

さらに。

その二つが同時に重なった。

何人もの人影が見える。

同じ場所に。

違う時代の人々。

誰もこちらを見ていない。

まるで幻だ。

ヒロが振り返る。

そして息を飲む。

「え……?」

目の前に。

ヒロがいた。

もう一人のヒロ。

別の服を着たヒロ。

別の時代のヒロ。

二人の姿が重なり。

そして消える。

アキもようやく異変に気づいた。

「なに、今の!?」


その瞬間だった。

タイムサイクルのモニターが激しく点滅した。

誰も触れていないはずなのに。

数字が次々と切り替わる。

2125。

1985。

1868。

2225。

そして一瞬だけ。

見慣れない数字が表示された。

2325

しかし次の瞬間には消えていた。

誰もその数字に気づかなかった。


ユウはすぐに緊急停止レバーを引いた。

ガチン!

景色が元へ戻る。

静寂。

誰も言葉を発しない。

やがてユウが口を開いた。

「勘違いするな」

アキとヒロが振り向く。

ユウは静かに言った。

「これは移動じゃない」

「……え?」

「俺たちは時間を飛び越えているわけじゃない」

ユウはタイムサイクルを見つめる。

「重なった時間の隙間を覗いているだけだ」

ガレージが静まり返る。

その言葉の意味を。

二人はまだ完全には理解できなかった。

しかし。

タイムサイクルが普通の乗り物ではないことだけは分かった。


そのとき。

カチ。

壁の時計が鳴った。

ヒロが何気なく見る。

そして固まった。

秒針が逆方向へ動いている。

カチ。

カチ。

カチ。

「……戻ってる?」

ユウは時計を見つめたまま答えた。

「戻ってない」

静かな声だった。

「まだ進んでないだけだ」

時計はゆっくりと逆回転を続けていた。

そしてサンセットのどこかで。

誰かの足音が聞こえた気がした――。

次回予告

時計が逆回転を始めた日。

それはただの異常ではなかった。

アキたちの知らないところで、時間そのものに小さなひずみが生まれていた。

そして次の冒険の舞台は――誰も見たことのない超未来都市。

空を埋め尽くすホログラム。

雲を突き抜ける超高層タワー。

人類が到達した、さらに200年後の世界。

第8話「2325年の空」

未来は、まだ先にあるとは限らない。

タイトルとURLをコピーしました