PR

スカイロード 第9話:時を越える森 ― 栃木リンク

サイクリングストーリー

プロローグ

茨城リンクを抜けた青いレールは、ひたち海浜公園の花の丘を離れ、内陸へ向かっていた。

夕暮れの海が少しずつ遠ざかっていく。

代わりに、広い平野の向こうから山々が姿を現し始めた。

アリスは前方を見つめた。

「……今度は山か」

「そうね。栃木リンクに入ったから」

アリーが答える。

「茨城では海と花だったけど、今度は何がある?」

「歴史ある建物に、深い森。それから大きな滝もあるわよ」

「滝か」

アリスの目が輝いた。

「海の次は滝か。水にもいろんな景色があるんだな」

「今回は、景色だけじゃないわ。長い時間をかけて受け継がれてきた歴史にも触れられるわよ」

「歴史?」

「日光東照宮。まずはそこからね」

アリスは前方に目を向けた。

「昔の人が残したものか。どんな場所なのか、楽しみだな」

青いレールは、山々の向こうへ伸びていった。

日光東照宮へ

山が近づくにつれて、景色は少しずつ変わっていった。

広い平野が終わり、緑の山々が連なっている。

その麓には、歴史を感じさせる建物が見えていた。

「ここが日光東照宮よ」

アリーの案内に、アリスは速度を落とした。

色鮮やかな社殿。

細やかな彫刻。

建物のあちこちに、動物や植物をかたどった装飾が施されている。

アリスは思わず身を乗り出した。

「……すごいな。建物なのに、まるで芸術作品みたいだ」

「江戸幕府を開いた徳川家康をまつる神社よ。建物や彫刻には、さまざまな意味が込められているの」

「こんなに細かいものを、昔の人が作ったのか?」

「そうよ。多くの職人が技術を注ぎ込んだのね」

アリスは、色鮮やかな彫刻をじっと見つめた。

「機械で何でも作れる未来から来たけど、これは簡単には真似できないな」

「道具が変わっても、人の技術や思いまで簡単に再現できるわけではないもの」

アリスはゆっくりと頷いた。

「時間がたっても残るものって、あるんだな」

杉並木の道

日光東照宮を後にした二人は、杉並木の上空へ進んでいった。

道の両側には、背の高い杉の木がどこまでも続いている。

枝葉の隙間から、柔らかな光が差し込んでいた。

アリスは周囲を見渡した。

「……これは長いな」

「日光杉並木よ。江戸時代に整備された並木道で、長い歴史を持つ場所なの」

「何百年も前から、この道を人が歩いていたのか」

「そうね。今も大切に守られているわ」

アリスは、木々の間を流れていく景色を眺めた。

「さっきの東照宮もそうだけど、昔の人が作ったものが、今まで残っているんだな」

「ただ残っているだけじゃないわ。守り続けてきた人たちがいるからよ」

アリスは少し考えてから、笑った。

「なるほど。作るのも大変だけど、残すのも大変なんだな」

「よく気づいたわね」

「旅をしていると、いろいろわかってくるからな」

アリーは楽しそうに微笑んだ。

いろは坂を越えて

杉並木を抜けると、青いレールは山の斜面に沿って上昇を始めた。

眼下には、曲がりくねった道路が続いている。

「この道、ずいぶん曲がっているな」

「いろは坂よ。日光の山々を越えて、中禅寺湖方面へ向かう道なの」

「なるほど。まっすぐ登るわけにはいかないんだな」

「急な山道だからね。カーブを重ねながら、高度を上げていくの」

アリスは道路の先を追いかけた。

「これ、自転車で走ったら大変そうだ」

「でも、景色を楽しみながら走る人もいるわよ」

「それは楽しそうだな。坂はきつそうだけど」

アリスは笑いながら、山の斜面に広がる緑を見渡した。

高度が上がるにつれて、遠くの山々まで見えるようになっていく。

「同じ山でも、見る場所が変わると全然違うな」

「登ることで見えてくる景色もあるのよ」

「だったら、少し大変でも登る価値はあるな」

アリーは頷いた。

青いレールは、深い森の向こうへ進んでいった。

中禅寺湖の青

山を越えた先に、広大な湖が姿を現した。

周囲を山々に囲まれた水面が、夕方の光を受けて輝いている。

アリスは思わず速度を落とした。

「……また湖だ」

「中禅寺湖よ。男体山の麓に広がる湖なの」

「福島の猪苗代湖とは、雰囲気が違うな」

「どう違うの?」

アリスは湖と山を交互に見た。

「こっちは山に囲まれているからかな。水が静かに見える」

「周りの地形によっても、湖の印象は変わるものね」

湖面には、空の色と山の影が映り込んでいた。

アリスはしばらく黙って景色を眺めていた。

「福島では、湖の色を追いかけた」

「ええ」

「茨城では、空と花と海。そして栃木では、山に囲まれた湖か」

アリーが笑った。

「水の景色を見分けるのが、上手になってきたわね」

「同じものでも、場所が違えば別の顔になるんだな」

アリスは湖の向こうにそびえる男体山を見上げた。

「自然って、面白いな」

華厳の滝

中禅寺湖を後にすると、青いレールは山の斜面に沿って進んでいった。

やがて、遠くから水音が聞こえてくる。

アリスは耳を澄ませた。

「……何か聞こえるぞ」

「華厳の滝よ」

「滝?」

アリスが前を見る。

その先で、大量の水が岩壁を一気に流れ落ちていた。

高さのある断崖。

白く砕ける水。

周囲を包む水しぶき。

アリスは思わず息をのんだ。

「……すげぇ。水って、こんなに迫力があるんだな」

「中禅寺湖から流れ出る水が、落差のある岩壁を流れ落ちているの」

アリスは滝から目を離せなかった。

「湖ではあんなに静かだったのに」

「同じ水でも、場所が変われば表情が変わるのね」

「そうだな。静かな湖も、勢いよく落ちる滝も、つながっているんだ」

轟音とともに、水が流れ続けている。

アリスは、その光景をじっと見つめた。

「……ずっと見ていられそうだ」

「気に入ったのね」

「もちろん。これは、実際に見ないとわからない迫力だな」

アリーは静かに頷いた。

時を越えて残るもの

夕暮れが山々を包み始めていた。

華厳の滝を離れた二人は、青いレールの上で速度を落とした。

アリスは、遠くに見える森を振り返った。

「日光って、不思議な場所だな」

「どうして?」

「昔の人が作った建物もあれば、ずっとそこにある山や森もある。それに、湖から滝へ流れていく水もある」

アリーは前を見つめた。

「人が残したものと、自然が作り出したもの。その両方が、この場所の景色を作っているのね」

「そういうことか」

アリスは納得したように頷いた。

「未来に来ても、昔のものを見て感動するなんて、思わなかったな」

「未来だからこそ、気づくこともあるのかもしれないわね」

アリスは小さく笑った。

「だったら、もっといろんな場所を見てみたいな」

「まだまだ旅は続くわよ」

栃木リンクの終端

夕暮れが深くなっていく。

日光の山々が少しずつ影の中へ入り、森の向こうには淡い光が残っていた。

遠くには、次の青いレールが見えている。

アリスが前を向いた。

「次は?」

「群馬リンクよ」

「群馬か。今度はどんな景色があるんだ?」

「草津温泉や、広い高原。それに、雄大な山々も待っているわ」

「温泉に高原か。日光とはまた違う景色になりそうだな」

「そうね。場所が変われば、自然の表情も変わるもの」

アリスは、もう一度日光の山々を振り返った。

「東照宮の彫刻も、杉並木も、華厳の滝もよかったな」

「ずいぶん気に入ったのね」

「昔の人が残したものも、自然が作ったものも、どっちもすごかった」

アリーは微笑んだ。

「今日の旅で、また一つ発見があったわね」

「景色を見ていると、いろんなことがつながって見えてくるんだな」

「少しずつ、旅の楽しみ方がわかってきたみたいね」

アリスは前を向いた。

「次の群馬でも、何か見つけてみるよ」

「楽しみにしているわ」

二人は顔を見合わせて笑った。

やがて、タイムサイクルが再び青いレールの上を走り始める。

その先には、草津の湯けむりと、広大な高原、そして山々が織りなす新しい景色が待っていた。

青いレールは、夕暮れの空へ伸びていく。

二人は、新しい空の道へ走り出した。

🌤 スカイロード公式設定

『スカイロード』は、西暦2125年を舞台にした未来SFサイクリングストーリーです。作品に登場する未来技術や世界観、登場人物などを「公式設定ページ」にまとめています。物語をもっと楽しみたい方は、ぜひご覧ください。

▶ スカイロード公式設定ページ

タイトルとURLをコピーしました