鋼の旅人

創作SFノベル

鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」ー⑩

第10話 北極圏・オーロラの下 氷原に立つ者「孤独の氷原に立つユノ」「沈黙の世界に、最後の旅人は足跡を刻む。」北極圏の風は、硬質な刃のように空気を削りながら走り、雪はそれに従う微粒子となって氷原の表面を擦りガラスのように磨いていた。ユノは仮...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」ー⑨

風が奏でる旋律の中で、ユノは“涙”を知った。第9話 ― ユーラシア・風の渓谷 ―風が歌っていた。それは音でも声でもなく、大地の深奥から湧き上がるような“うねり”だった。ユーラシア大陸の内陸部に広がる「風の渓谷」は、かつて文明と文明が交差した...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第8話

地底図書館——記憶の海に触れてプロローグ月明かりすら届かない、地表(ティアンシャン山脈)からはるか地下。幾重もの崩落した岩壁を抜け、ユノは長い螺旋状の通路を降り続けていた。サイクルコンピュータの数値は、すでに海抜マイナス600メートル。耳に...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第7話

雷鳴の谷、記憶の断層─記憶は過去の亡霊ではなく、未来の魂である。プロローグ:変わりゆく地球の息吹世界は、刻一刻とその姿を変えていく。人がいなくなった今も、大地は呼吸し、空は怒り、風は歴史を語っていた。中央アジア──かつてユーラシアの十字路と...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第6話

静かなる月の遺構にてⅠ.重力のない静寂の地重力が、少しだけ軽い。ユノはゆっくりと足を前に出した。その動きは慎重でありながら、まるで訓練された宇宙飛行士のように正確で、ブーツが接地するたびに、細かな月の砂がふわりと舞い上がる。ここは月面基地―...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第5話

氷の大地で、心が静かに燃えるプロローグフランツ・ヨーゼフ諸島。世界のすべてが、ただ白に覆われていた。雲ひとつない空に、極北の太陽が低く輝く。光は氷原全体に反射し、無数の粒子のように揺らめいている。風が吹けば、雪の結晶はきらめきをまとい、一瞬...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第4話

記憶の街、眠る技術プロローグ灰色の空が低く垂れ込め、風が冷たく頬を打つ。ユノがロードバイクを駆けて辿り着いたのは、かつて“世界の頭脳”と呼ばれた超都市――「東京」の残骸だった。都市の輪郭はまだそこにある。だが、ビル群は静かに崩れ落ち、ガラス...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第3話

記憶の花が咲く場所 ―南米・アマゾン熱帯雨林―プロローグ:緑の海へ木々が空を突き、湿った風が地面を這う。「アマゾン熱帯雨林」は、機械のセンサーがこれまで捉えてきたどの景色とも違っていた。熱源と生命活動の濃度が桁外れに高く、空気そのものが生き...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第2話

砂嵐に立つ影 ―モロッコ・砂漠地帯にて―プロローグ:砂漠への旅立ち荒廃した都市を離れ、ユノは南へと進んでいた。地図に示された「モロッコ」の文字。それはかつて人類が生きた場所であり、文明と文化が交差する都市群が存在した地域だった。今やその面影...
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鋼の旅人:世界を駆けるロボット「ユノ」第1話

起動──鋼の自我、眠れる記憶プロローグ 暗闇の中、音も光もなかった。 世界は眠っていた。いや、止まっていた――その瞬間までは。 「起動コード認識──ユノ、再起動開始。」 乾いた電子音が格納庫の奥に響いた。低い振動が床を震わせ、長い眠りについ...