
タイムサイクルでの次の着地は、アキにとって予想外の展開となった。
静まり返った都市。近未来の雰囲気が漂うその場所には、人影がほとんど見当たらず、空気にはわずかな違和感が漂っていた。
「ヒロ? ……ヒロ!? どこにいるの?」
気づけば、アキはひとりだった。
隣にいたはずのヒロが、どこにもいない。
タイムサイクルのディスプレイには《片方のユニットが未到達》という表示。
そんなことはこれまで一度もなかった。常に2人は同じ場所に転移していたはずなのに──。
(まさか、時空のねじれ?)
アキは頭を振り、ひとまず周囲の探索に踏み出す。
街は高度に自動化されていて、歩行者も車も存在せず、代わりにホログラムとドローンが整然と動いていた。
「すみません、ここで“ヒロ”って名前の少年を見かけませんでしたか?」
通りすがりの案内ドローンに尋ねるも、返ってきたのは不穏な言葉だった。
「“ヒロ”という存在の記録は、この時代には存在しません」
「……え?」
アキの心に冷たい不安が広がっていく。
タイムサイクルに搭載された過去ログを調べると、驚くべき事実が浮かび上がった。
この時代には、「ヒロ」という人物が最初から存在していなかった。
つまり、彼はこの時代の歴史から“消されている”──
(そんなはずない。ヒロは確かにここにいた。いまも、どこかにいる!)
アキは必死で痕跡を追い、廃墟のような図書アーカイブセンターに辿り着く。
そこには、もう使われていない記憶装置と、古びた時空エラー記録データがあった。
再生された映像の中で、アキは目を見開いた。
そこには、転送中の光の中で、ヒロの姿が一瞬ブレ、そして――消える瞬間が映っていた。
原因は、時空間に発生した微小なねじれ。
ヒロの転送座標が、ほんのわずかに逸れたことによって、存在そのものが“認識されない時代”に落ちてしまったのだ。
「そんな……」
アキは手を握りしめる。
これまでの旅で、楽しい思い出も怖い経験も、すべてヒロと一緒に分かち合ってきた。
姉として、仲間として、放っておけるはずがない。
(絶対に、ヒロを取り戻す)
彼女はタイムサイクルに残されたヒロの最後の座標を再構築し、エラー空間へ突入する。
ノイズ混じりの時空の中、何度もバイクが揺れ、空間が歪んではねじれていく。
だがその奥に、アキは小さくうずくまるヒロの姿を見つけた。
「ヒロ!!」
彼の耳に届くよう、何度も何度も名前を叫んだ。
その声がようやく届いたとき、ヒロがゆっくりと顔を上げた。
「アキ……? お姉ちゃん……来てくれたの……?」
アキはタイムサイクルから降りて駆け寄り、力強く抱きしめた。
「当然でしょ。私たちは、ずっと一緒なんだから」
ヒロの頬に涙が伝う。
姉弟の絆は、時空の壁さえ超えて、再び彼らを結びつけたのだった。
まばゆい光とともに、2人を乗せたタイムサイクルは、正常な時空へと復帰する。
ふたりは無言で空を見上げた。
言葉はなかったが、互いの存在を確かめるには十分だった。
「ただいま、アキ」
「おかえり、ヒロ」
再びタイムギアが回る音が、静かに響き始めた。
📢次回予告:
あの日、星空の下でふたりが交わした心の約束。ひまわりが風に揺れ、蝉の声が遠くから聞こえてくる。夏の日差しと潮の匂い。アキとヒロが最初に自転車を教え合った、原点のような場所だ。辿り着いたのは──一番最初の“約束の場所...。
次回第9話『約束の場所へ』をお楽しみに! 9/6(土)公開予定。
前の記事はこちらからまとめて読めます → https://cycling-storyz.com/timecycle-link/
※この物語はフィクションです。AI(ChatGPT)の支援をもとに執筆・編集されています。