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タイムサイクル 第9話

タイムサイクル

「約束の場所へ」

風が頬をなでる。
アキとヒロは並んでペダルをこいでいた。タイムサイクルが時空を超える旅を続ける中で、ふたりの心の距離は少しずつ変化していた。

かつては姉にまとわりついて離れなかった幼い弟。
思春期を迎え、反抗心ばかりを前に出すようになったヒロも、今では違う。照れ隠しの裏に、姉と過ごした日々の温もりを確かに抱えている。

だからだろう。
旅の途中、ふとした瞬間に彼が自分から口を開いたのは。

「……アキ、ひとつ思い出したことがあるんだ」

「なに?」

「俺、小さい頃に“将来、姉ちゃんと世界を旅する”って言った気がする。たぶん、七夕の日に」

アキは驚いた顔をして、すぐに笑みを浮かべた。

「覚えてたんだ、それ」

あの日、星空の下で交わした心の約束
まだヒロが補助輪を外したばかりの頃だった。未来なんて想像もつかなくて、ただ「一緒にいられたらいいね」って、それだけで笑い合っていた。


「じゃあさ、最後の旅先は……“あの場所”にしようよ」

アキはタイムサイクルのディスプレイを開き、現在と同じ場所、ただし過去の夏を設定した。

転送の光に包まれ、ふたりは記憶の中へと戻っていく。


そこは、昔住んでいた町の、海沿いの坂道だった。

ひまわりが風に揺れ、蝉の声が響き、潮の匂いが夏の日差しに混じる。
アキとヒロが初めて自転車を教え合った、原点のような場所だ。

「……ここ、懐かしいな」

「うん。ヒロ、泣きながら坂を登ってたっけ」

「言わないでよ、あれは汗だって!」

ふたりは笑い、あの日と同じ道を、あの日とは違う速さで駆け抜ける。
幼い自分を追い越すように、成長した今の姿で。


坂の頂上で立ち止まると、海がきらめいて広がっていた。
遠く、防波堤の先に並ぶふたりの姿──過去の自分たち

まだ未来なんて知らない小さな姉弟は、ただ空を見上げていた。
まさか数年後、本当に“旅”をしている自分たちに出会うなんて、想像すらしていない表情で。

ヒロは目を細めながらつぶやいた。

「なぁ、アキ」

「うん?」

「旅ってさ……戻る場所があるから、冒険になるんだな」

その声は風に溶けて、静かに海へ消えていった。
長い時間を越え、さまざまな時代をめぐり、ようやく辿り着いたのは──一番最初の約束の場所


ふたりは無言のまま坂を下った。

タイムサイクルは、今までよりもずっと軽く、そして静かに動いていた。
ペダルの音、風の音、心の奥に残る“あの約束”が、彼らを導いていく。

道の途中、蝉の声が一段と強く響いた。
幼い頃はその音に圧倒されて泣きそうになったヒロも、今では静かに受け止められる。成長の証を、アキは横目で確かに感じていた。


「アキ姉、次が最後の旅かもしれないね」

「うん。でも……怖くない」

「なんで?」

「だって、どこへ行っても、ヒロと一緒だから」

アキの言葉に、ヒロは照れくさそうに笑った。
だが、その頬は赤く染まり、心の底では同じ気持ちを抱いていた。

笑い合うふたりの視線の先、時空の狭間が静かに開かれていく。
最後の旅路が、彼らを待っている。


やがて、タイムサイクルのギアが回り始めた。
その音はまるで、心臓の鼓動と重なるかのように。

風が未来へと背中を押す。
姉と弟の旅は、次の瞬間、さらなる時空の彼方へと漕ぎ出していった。


📢次回予告:

長く続いた時空の旅も、ついに終わりが近づいていた。アキとヒロは、最後の着地点に設定された「現在」へと帰還する。出会った人々、別れを告げた人々──そのすべてが彼らの旅路に彩りを与えた。そしてふたりの人生”という名の、もっと長くて、もっと現実的な旅が始まる・・・

最終話『ふたりで未来へ』をお楽しみに! 9/13(土)公開予定。

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※この物語はフィクションです。AI(ChatGPT)の支援をもとに執筆・編集されています。

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