サンセットの窓から差し込む午後の日差しが、店内の木のテーブルを照らしていた。
「おっ!」
古い新聞をめくっていたアキが突然声を上げた。
「見て見てヒロ! 明治時代に『消えた郵便袋事件』だって!」
ヒロは顔を上げる。
「また変なの見つけたな……」
記事にはこう書かれていた。
『東京―横浜間を運ぶ重要郵便が何者かに持ち去られる』
「面白そう!」
「絶対その感想じゃないと思う」
「行こう!」
「早い!」
アキはもうタイムサイクルへ向かっていた。
ユウはコーヒーカップを磨きながら苦笑する。
「気をつけてね」
「行ってきまーす!」
「はあ……」
ヒロも仕方なく後を追った。
光のトンネルを抜けると、二人は石畳の道に降り立った。
「おおー!」
アキが目を輝かせる。
洋風のレンガ建築。
人力車。
着物姿の人々。
そして蒸気機関車の汽笛。
「これが明治時代か!」
「文明開化の真っ最中だね」
その時だった。
「大変だー!」
郵便局の前で男性が慌てていた。
「郵便袋が盗まれた!」
周囲がざわつく。
アキはすぐ飛び出した。
「詳しく聞かせてください!」
男性は郵便配達員だった。
「横浜へ届ける重要な郵便なんだ! あれがないと困る人が大勢いる!」
「犯人は?」
「黒い帽子の男が持って逃げた!」
アキがニヤリと笑う。
「追跡だね!」
「やっぱりそうなるか……」
ヒロはため息をついた。
二人は聞き込みを始めた。
「黒い帽子なら港の方へ行ったぞ」
「いや、駅の方だった」
証言がばらばらだ。
アキは首をかしげる。
「どっち?」
ヒロは考え込んだ。
「待って。郵便袋を持って遠くへ逃げるなら、一番速い移動手段を使うはずだ」
「つまり?」
「鉄道だよ」
ちょうど駅の方向から汽笛が聞こえた。
アキの目が光る。
「行くよ!」
二人はタイムサイクルに飛び乗った。
駅へ向かう途中。
人混みの先に黒い帽子の男が見えた。
「あっ!」
男もこちらに気づく。
そして全力で走り出した。
「いたー!」
アキも全力でペダルを踏む。
「待てー!」
「犯人が待つわけないだろ!」
ヒロのツッコミが風に流された。

石畳の道を疾走するタイムサイクル。
男は路地へ飛び込む。
アキも迷わず突っ込んだ。
「ちょっ!」
狭い。
曲がり角だらけ。
しかしタイムサイクルは小回りが利く。
少しずつ距離が縮まる。
ところが男は突然、橋の上へ飛び出した。
その瞬間。
郵便袋が手から滑った。
「あっ!」
袋は川へ落下する。
「まずい!」
ヒロが叫んだ。
流されたら終わりだ。
アキは一気に加速した。
橋の脇の坂道を駆け下りる。
「アキ!」
「任せて!」
川沿いを並走する。
袋は流れに乗ってどんどん遠ざかる。
ヒロが前方を指差した。
「橋脚!」
「なるほど!」
アキは進路を変えた。
郵便袋が橋脚に引っかかるタイミングを狙う。
そして。
ガシッ!
見事に回収成功。
「やったー!」
「よし!」
二人は顔を見合わせた。
その頃、黒い帽子の男は観念して座り込んでいた。
郵便局員たちが駆けつける。
だが話を聞くと意外な事実が判明した。
男は泥棒ではなかった。
郵便袋の中に、自分の家族へ送られた手紙があると思い込み、慌てて持ち去ったのだった。
本当は読み書きができず、郵便の仕組みを誤解していたのである。
「そうだったのか……」
アキがつぶやく。
ヒロも頷いた。
「この時代はまだ郵便制度が始まったばかりだからね」
郵便局員は優しく説明した。
男は何度も頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
そして後日、読み書きを学ぶ決意をしたという。
問題は無事解決した。
夕暮れ。
レンガ駅舎の前で二人は明治の街を見渡していた。
「すごかったなあ」
アキが言う。
「昔の人も新しい仕組みに苦労してたんだね」
「今の時代と同じだよ」
ヒロが笑った。
「新しいものが出れば、みんな最初は戸惑う」
「なるほど」
汽笛が遠くで鳴った。
二人はタイムサイクルへ乗り込む。
サンセットへ戻ると、ユウが待っていた。
「おかえり」
「ただいま!」
「今度は何を追いかけたの?」
「郵便袋!」
「予想の斜め上だった」
ヒロが即答する。
ユウは苦笑した。
「無事で何よりだよ」
するとアキが店の棚に置かれていた古い観光パンフレットを手に取った。
「あれ?」
「今度は何?」
ヒロが警戒する。
アキは表紙を指差した。
「見てこれ!」
そこには見覚えのある海辺の都市が写っていた。
だが表記された年代は――2225年。
「えっ?」
ヒロも目を丸くする。
「2225年って……」
「私たちの100年後じゃん!」
アキの目がキラキラ輝く。
「面白そう!」
「その言葉しか知らないの?」
「行こう!」
「だから早いって!」
アキはもうタイムサイクルへ向かって走り出していた。
ユウは静かにコーヒーを口にする。
「未来は見るものじゃなく、作るものなんだけどね」
「今、何か意味深なこと言った?」
ヒロが振り返る。
しかしユウはただ微笑むだけだった。
次の冒険は、二人自身も知らない未来へ続いていた。
次回予告
サンセットで見つけた一枚の未来都市パンフレット。
そこには見覚えのある海辺の街が写っていた。
ただし年代は――2225年。
「私たちの100年後じゃん!」
大興奮のアキ。
しかし到着した未来都市では、街中の配送ロボットが次々と行方不明になる不思議な事件が起きていた。
消えたロボットはどこへ行ったのか?
そして100年後の世界で二人が見たものとは――。
第5話「未来都市パニック!消えたロボットを追え!」
お楽しみに!

