プロローグ
栃木リンクを抜けた青いレールは、日光の山々を離れ、西へ向かっていた。
夕暮れの空には、まだ淡い光が残っている。
眼下には山々が連なり、その向こうには広い高原が広がり始めていた。
アリスは前方を見つめた。
「……今度は高原か」
「そうね。群馬リンクに入ったから」
アリーが答える。
「栃木では歴史ある建物や深い森、それに大きな滝を見たけど、今度は何がある?」
「温泉と山よ。地面から湯けむりが立ち上る場所もあれば、空に届きそうな高い山もあるわ」
「温泉か。未来の日本にも、昔ながらの温泉が残っているんだな」
「もちろん。長い時間をかけて育まれてきた温泉文化も、この国の大切な風景の一つよ」
「それは楽しみだな」
アリスは前方に目を向けた。
「まずは温泉から見てみたい」
「それなら、草津温泉へ向かいましょう」
青いレールは、山あいの温泉地へと伸びていった。
草津温泉の湯けむり
山々に囲まれた町へ近づくと、白い湯けむりがあちこちから立ち上っていた。
建物の間からも、道路の脇からも、温かな蒸気が空へと流れている。
アリスは速度を落とした。
「……あちこちから煙が出ているぞ」
「煙じゃなくて、温泉の湯けむりよ。ここが草津温泉」
アリーの案内に、アリスは眼下を見つめた。
町の中心には、湯けむりに包まれた大きな湯畑が広がっている。
木の樋を流れる温泉。
立ち上る白い蒸気。
周囲には、温泉街らしい建物が並んでいた。
「これが湯畑か。ずいぶん大きいな」
「草津温泉のシンボルよ。高温の源泉を木の樋に流して、温度を調整したり、湯の花を採取したりしているの」
「自然に湧き出したお湯を、こうやって利用しているんだな」
「そうね。昔から受け継がれてきた温泉の知恵なのよ」
アリスは湯けむりの向こうに目を向けた。
「温泉って、ただお湯に入るだけじゃないんだな」
「町の景色や文化も含めて、温泉の魅力なのかもしれないわね」
アリスはゆっくりと頷いた。
「なるほど。ここに来るだけで、温泉の町だってわかるな」
草津の温泉街
湯畑を離れた二人は、温泉街の上空をゆっくり進んでいった。
細い坂道。
軒を連ねる旅館や土産物店。
道のあちこちから、温泉の湯けむりが漂っている。
アリスは町の様子を眺めた。
「この町は、歩いているだけでも楽しそうだな」
「昔ながらの温泉街の雰囲気が残っているからね」
「建物も道も、どこか懐かしい感じがする」
「温泉を中心に、人が集まり、町が育ってきたのよ」
アリスは湯畑の方向を振り返った。
「さっきの湯畑もそうだけど、町全体が温泉とつながっているんだな」
「そうね。自然の恵みが、人々の暮らしや文化を作ってきたの」
アリスは少し考えてから笑った。
「日光では、昔の人が残した建物や道を見たけど、ここでは温泉そのものが町を作っているんだな」
「場所によって、歴史の残り方も違うのね」
「旅をしていると、そういう違いが面白くなってくるよ」
アリーは楽しそうに微笑んだ。
谷川岳の大自然
草津温泉を後にした二人は、群馬の山々を越えて北へ向かっていた。
やがて、遠くにひときわ大きな山並みが姿を現した。
鋭く切り立った岩肌。
深い谷。
山頂付近には、白い雲がゆっくりと流れている。
アリスは思わず速度を落とした。
「……あれは?」
「谷川岳よ」
「ずいぶん険しい山だな」
「群馬と新潟の県境にある山で、標高は約1,977メートル。双耳峰と呼ばれる二つの峰が特徴なの」
「二つの峰?」
「山頂に並んで見える、トマノ耳とオキノ耳のことよ」
アリスは山頂を見つめた。
「なるほど。二つの峰が並んでいるんだな」
山の斜面には、深い緑が広がっている。
その上には、岩肌がむき出しになった険しい斜面が続いていた。
「同じ山でも、場所によってずいぶん表情が違うな」
「谷川岳は、登山でも知られている山なの。美しい景色だけでなく、険しい自然でも知られているわ」
「見ているだけでも、その厳しさが伝わってくるよ」
アリスは山の稜線を追いかけた。
「さっきの草津温泉とは、まるで別世界だな」
「でも、どちらも群馬の自然が生み出した景色よ」
「温泉の温かさと、山の厳しさか」
アリスは山頂を見上げた。
「自然って、本当にいろんな顔を持っているんだな」
空へ続くロープウェイ
谷川岳の山麓に近づくと、山の斜面に沿って伸びるロープウェイが見えてきた。
小さなゴンドラが、ゆっくりと高度を上げていく。
アリスは興味深そうに見つめた。
「おっ、あれは何だ?」
「谷川岳ロープウェイよ。山の上まで人を運んでくれるの」
「空中を進んでいくんだな」
「そうね。ゴンドラからは、周囲の山々や谷の景色を楽しめるわ」
アリスはゴンドラの進む先を目で追った。
「歩いて登るのとは、また違った景色が見られそうだ」
「季節によっても景色が変わるのよ。新緑の季節も、紅葉の季節も、それぞれ違った魅力があるわ」
「冬は?」
「雪に包まれた山々が広がるわ」
アリスは少し驚いた表情を見せた。
「同じ場所なのに、季節が変わるだけで別の景色になるのか」
「自然はいつも同じ姿ではないもの」
アリスは眼下に広がる森を見つめた。
「いつか、季節を変えてもう一度来てみたいな」
「それも旅の楽しみ方ね」
青いレールは、山の稜線に沿ってゆっくりと進んでいった。
山が教えてくれること
谷川岳の山頂を離れた二人は、少し高度を下げながら山々を眺めていた。
夕方の光が岩肌を照らし、谷には長い影が伸びている。
アリスは、遠ざかっていく山を振り返った。
「草津温泉も谷川岳も、ずいぶん印象に残る場所だったな」
「どちらも気に入った?」
「もちろん。草津では地面から温泉が湧き出していたし、谷川岳では山の大きさと険しさを感じた」
「同じ群馬でも、ずいぶん違う景色だったわね」
アリスは頷いた。
「温泉は人を温めてくれるし、山は人を圧倒する。どちらも自然の力なんだな」
「そうね。自然の恵みも、厳しさも、どちらも受け止めながら人は暮らしてきたのよ」
アリスは遠くの山並みを見つめた。
「便利な未来にいても、こういう景色を見ると自然の大きさを感じるよ」
「それは大切な発見かもしれないわね」
アリスは小さく笑った。
「次の場所でも、また違う発見がありそうだ」
群馬リンクの終端
夕暮れが深くなっていく。
谷川岳の稜線が少しずつ影の中へ入り、山々の向こうには淡い光が残っていた。
遠くには、次の青いレールが見えている。
アリスが前を向いた。
「次は?」
「埼玉リンクよ」
「埼玉か。今度はどんな景色があるんだ?」
「広い平野に、歴史ある町並み。それに、自然の中を流れる川もあるわよ」
「温泉と山の次は、町と川か」
「そうね。群馬とはまた違った景色に出会えるはずよ」
アリスは、もう一度谷川岳の方を振り返った。
「草津の湯畑も、温泉街も、谷川岳もよかったな」
「ずいぶん楽しんだみたいね」
「自然の力ってすごいよな。温泉を生み出したり、あんな大きな山を作ったりするんだから」
アリーは微笑んだ。
「今日の旅でも、いろいろなことを感じられたわね」
「次は埼玉か。今度はどんな発見があるのか楽しみだ」
「きっと、また新しい景色に出会えるわよ」
アリスは前を向いた。
やがて、タイムサイクルが再び青いレールの上を走り始める。
その先には、歴史ある町並みと、広い平野を流れる川、そして新しい出会いが待っていた。
青いレールは、夕暮れの空へ伸びていく。
二人は、新しい空の道へ走り出した。
🌤 スカイロード公式設定
『スカイロード』は、西暦2125年を舞台にした未来SFサイクリングストーリーです。作品に登場する未来技術や世界観、登場人物などを「公式設定ページ」にまとめています。物語をもっと楽しみたい方は、ぜひご覧ください。
